研究内容
森林における物質循環プロセスと環境機能の解明
生物と環境の相互作用や、多様な森林の状態、地球環境の変化や人間活動が物質循環プロセスに及ぼす影響に興味を持っています。
特にこれまでに取り組んできたこと
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森林の炭素や窒素動態における林床植生の役割
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森林における細根動態
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森林伐採などの撹乱が物質循環、生物生産に及ぼす影響
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地質の違いが河川水質に及ぼす影響
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森~里~海のつながり など
足元に目を向けると、ここでは地表はササで覆われています。
北海道の森林では林床植生としてササが繁茂しており、ササは重要な研究対象です。
毎木調査やササの量(バイオマスや生産量)を測ったり、
地上部だけでなく地下部の細根の動きを視たり、
採取してきた植物体、土壌や河川水などのサンプルをラボで化学分析したり、
フィールド半分、化学分析半分といったところでしょうか。
化学分析は、窒素・リン、炭素、イオン成分、金属成分などが中心です。
小鳥のさえずり、葉が風にそよぐ音、せせらぎの音を聞きながら、森林に分け入るのは気持ちよく、
またラボでのサンプルから化学的データを取り出す作業も小学校の理化での実験と同様にワクワクします。
専門:生物地球化学、森林生態学
いくつかの研究プロジェクトの紹介
大気窒素沈着が森林生態系に及ぼす影響を調べるために長期にわたり集水域スケールの窒素施肥を起行い、河川水質をモニタリングしています。2001年から硝酸アンモニウム(硝安)として1.4haの集水域全域に施肥を行っています(年間50kgN/ha)。河川水中の硝酸イオン濃度が施肥を開始して9年目以降に一気に濃度が上昇することが分かってきました。この森林は比較的窒素を保持する能力が高いと考えられます。
シカによる林床植生の食害を想定し、人為的にササを除去し、土壌窒素の変化を中心に調べています。短期的には土壌の窒素循環への影響は小さいことが分かってきました。クマイザサは地上部と地下部の比率がほぼ1:1であり、地上部を刈り取られても地下部の細根が維持されていることも分かりました。この実験の効果を検証するにはより長期で調べる必要があり、現在も継続して調べています。
森林伐採等の森林施業が河川水質に及ぼす影響を集水域スケールでの森林施業を行い、調べています。
研究林の基盤調査課題として、河川水質の長期モニタリングを実施しています。
その他にも外部の研究者との共同研究を実施しています。
論文から
Yanagawa S, Fukuzawa K, Takagi K, Shibata H, Satoh F (2023) Presence of understory dwarf bamboo determines ecosystem fine root production in a cool-temperate forest in northern Japan. Journal of Forest Research28:177-185
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2023.2169981
細根生産量を評価することは労力がかかり大変なため、地上部の樹木量から推定する試みが行われています。北海道北部のクマイザサ(以下、ササ)が生育する複数の林分において、細根生産量を樹木とササに分けて定量し、どのような林分で高いのか、また地上部の樹木量から予測可能かどうか調べました。樹木の細根生産量は地上部の樹木量が高まるほど大きくなりましたが、全体の細根生産量は地上部の樹木量が高まるとむしろ低くなりました。これは、ササの細根生産量と同様の傾向でした。ササ地とよばれる樹木が生えない場所でも樹木が密生する林分と同等の細根バイオマスを有しており、ササが生育するかどうかが全体の細根生産量を決めていました。したがって、林床にササが密生する冷温帯林においては、地上部の樹木量から細根生産量を予測することは難しく、林床植生を考慮しなければ細根動態を語れないことが分かりました。
北海道東部にて積雪減少が細根動態に及ぼす影響を調べるため、樹木(ミズナラ)とミヤコザサ(以下、ササ)の細根生産・枯死の時間変化パターンを別々に調べました。除雪区では全体の細根生産タイミングが早まりました。また、植物種別では、ササではでは早まったのに対し、ミズナラでは変化がありませんでした。また、細根生産量がササのみで高まりました。一方除雪処理による細根枯死(分解を含む)への影響は認められませんでした。積雪減少は融雪時期の早まりを通じてササに有利に働き、ササとミズナラの競争関係が変わる可能性が示唆されました。
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